東京の子

東京の小学生は「勉強が役に立つ」と考えている割合が低い−−。ベネッセ教育研究開発センターが実施した「学習基本調査 国際6都市調査」でそんな結果が出た。中国や韓国、米国など5都市の児童に比べて、勉強が将来の職業や収入、幸福な生活に結びつくと考える意識が薄く、学ぶことにあまり意味を見いだしていない傾向が浮き彫りになった。【望月麻紀】

 調査は06年6月〜07年1月に東京、ソウル、北京、ヘルシンキ、ロンドン、ワシントンDCで実施。各都市の10〜11歳(国内では小5)計約6000人に、学校を通じて回答してもらった。

 勉強の効用についての設問は(1)一流の会社に入る(2)お金持ちになる(3)出世する(4)社会で役立つ人になる(5)心にゆとりある幸せな生活をする(6)趣味やスポーツなどで楽しく生活する(7)尊敬される人になる(8)よい父、母になる。それぞれについて勉強が役立つかどうかを聞いた。

 ■「役立つ」最低

 東京の児童は全設問で「役立つ」と肯定した割合が6都市中最も低かった。特に(1)〜(3)でその傾向が顕著で、勉強を出世や収入など社会的な成功の手段と考える傾向が低い。最も肯定率が低かったのは(2)「お金持ちになる」42・6%だが、東京、北京以外では70%を超えた。

 価値観や社会観を問う「一流の会社に入ったり、一流の仕事に就きたい」「わが国は努力すれば報われる社会」という設問でも、東京の児童の肯定率は他都市より10ポイント以上下回った。

 ■平日平均101分

 一方、学校以外の平日学習時間(塾を含む)は東京は平均101分。ソウル、北京に次いで長い。しかし、同センターの調べでは、中学受験をする子は平均156分、受験しない子は平均54分で、その差は3倍。児童の4割弱を占める受験予定者が、平均学習時間を押し上げているといえそうだ。

 学習上の悩みは各都市でばらつきがあった。6都市中、東京の児童の選択比率が最も高いのは「どうしても好きになれない科目がある」60%、「上手な勉強の仕方が分からない」30%だった。一方、選択比率が6都市中最低だったのは「親の期待が大きすぎる」17%。「覚えなければならないことが多すぎる」はソウル、ワシントンDC、ロンドンに次いで4番目で35%にとどまった。

 ■進む二極化

 調査企画・分析メンバーの一人、耳塚寛明お茶の水女子大大学院教授(教育社会学)は「東京ではいわゆる詰め込み教育からの脱却がひとまず成功したようだ。だが、勉強をする層としない層に二極化が進み、学習行動に格差社会の影がうかがえ、競争は極地的に激しくなっている。受験以外の学習の効用を大人が子どもに示す必要がある」と指摘している。

 ◇大人の生活、影響か 楽しさ、親子で共有を もっと読書を

 勉強する意義を子どもたちにどう伝えればいいのか。識者に聞いた。

 数学者の秋山仁さんは「日本では、本も新聞も読まない親の生活に子どもが感化されて、『うまく世の中を渡ればいい』『運が良ければいい』と考えているのではないか。学びの原動力は好奇心。親や先生が楽しく学ぶ姿を見せれば、子どもの知的好奇心も喚起される」と話す。

 中3と小6の男児の母親でもある菅原ますみ・お茶の水女子大教授(発達心理学)は「将来的に勉強が何に役立つのかと子どもと話し合うのも大切だが、日常の中で学ぶのは楽しいと印象づけてみては」と提案する。「親は子どもが勉強しているかどうかを監視するだけではなく、中学生ぐらいまでは勉強の楽しさを共有することが大事。『習ったことがある』『面白そう』と声を掛け、子どもの語彙(ごい)や知識が増えるといった小さな変化を褒めてほしい」とアドバイスする。

 03年の経済協力開発機構OECD)学習到達度調査で総合1位に輝いたフィンランドの家庭ではどうしているのか。在日大使館公使参事官のアヌ・サーレラさんは14歳と9歳の女児の母。「フィンランドでは、大人も子どもも図書館をよく利用する。祖父母世代を含めて家族間の贈り物も本が多い」。アヌさんが「おしゃれが大好きな典型的ティーンエージャー」と評する長女も本が好きで、8歳までアヌさんに読み聞かせをしてもらっていた。次女も自分から進んでよく本を読む。読解力世界一の土台には、大人の読書好きがあるようだ。

毎日新聞 2007年9月23日

 相変わらずかわいそうですね